史上初・春夏連覇の軌跡


第34回選抜高校野球大会

     作新学院の戦いはイバラの道だった。

     2回戦から登場し、久賀(山口)に5−2で勝った。

     4回に1点を先制したが、その裏2点を奪われ逆転された。

     すかさず5回に2点を挙げて再び主導権を握り、8回に2点を加えて勝利を決めた。

     八木沢が立ち直り、後半は付け入るスキを与えなかった。無四球はさすがだった。

     このあとの試合は八木沢の活躍がひときわ光った。

     準々決勝の八幡商(滋賀)との試合は大変な苦戦を強いられた。

     なんと延長18回を戦い、0−0で引き分けたのである。八幡商・駒井のシンカーが

     コーナーに決まり作新打線は8安打7死球を奪いながら要所を抑えられた。

     八木沢はさすがで、8安打を許したものの無四球であった。

     再試合も接戦となり、作新学院は2−0と薄氷を踏む内容となった。

     先発投手に熊倉栄一を起用し、八木沢をリリーフさせて逃げ切った。

     準決勝は名門・松山商(愛媛)が相手。

     1回に高山忠克が中前に適時打を放ち先制すると、3回にも3塁打の中野征孝が

     ホームスチールを決めて2点差をつけた。この後は松山商・山下に抑えられた。

     松山商は5回に適時打で1点、さらに9回裏1死3塁からスクイズで同点に追いついた。

     延長16回、作新学院は失策からチャンスをつかみボークの後、高山の打球を遊撃手が

     トンネルし得点、これが決勝点となった。

     決勝戦の相手・日大三(東京)も投手力に優れ、井上と八木沢の投げ合いが続いた。

     投手戦の中、終盤に入り8回中野の安打、高山の四球に続き柳田が

     右前に安打し1点を入れ、これが決勝点となり八木沢が気力で投げ切った。

     作新学院は初めて優勝旗を手にした。

     紫紺の優勝旗が初めて利根川を越えたのだった。

     八木沢は1回戦から準決勝の7回2死まで42イニング、145人の打者に無四死球。

     連続35イニング無失点のピッチングを続けた。

     こうして作新学院は八木沢の好投と中野の攻守にわたる活躍で栄光の座についた。

     「春は投手力」といわれているが実力互角の投手を揃えていたのが、作新学院にとって

     何よりの武器だったといえよう。






第44回全国高校野球選手権大会

      選抜覇者・作新学院は当然のごとく夏の甲子園に出場した。

      もちろん優勝候補の筆頭であり、史上初の春夏連覇が焦点だった。

      マスコミは作新学院の春夏連覇成るかの話題を盛んに書きたて

      「春の優勝校は夏は優勝できない」というジンクスを破るか否かに注目が集まった。

      春の優勝投手・八木沢は健在。中野と高山を中心とする打線は強化されていて

      作新学院の春夏連覇は間違いないと思われていた。

      ところが甲子園に入って間もなく八木沢が「赤痢」にかかり病院に隔離されたのである。

      このピンチを救ったのが加藤武だった。八木沢と比べ「力は落ちる」というのが大方の

      見方で早くも「作新学院の春夏連覇は無理」という声さえ上がった。

      1回戦の気仙沼(宮城)には思わぬ苦戦をし延長11回、2−1で勝利。

      2回戦は打線が爆発して毎回の14安打で慶応(神奈川)を7−0、

      準々決勝の岐阜商も9−2と加藤の力投と中野の好打で圧勝した。

      準決勝は中京商(愛知)。加藤が巧みな投球を見せ凡打の山を築いた。

      終盤まで0−0、作新学院は8回、伊藤の右前安打でチャンスを作り

      大橋、中野が打点を挙げ2点を奪い、加藤がそれを守り逃げ切った。

      決勝は久留米商(福岡)との顔合わせ。試合はまれにみる接戦だった。

      作新学院・加藤、久留米商・伊藤の投げ合いは緊張のうちに進んだ。

      均衡を破ったのは7回裏の作新学院。伊藤が優勝へ口火を切る左前打、さらに失策、

      バント安打で無死満塁。この後2死となったが中野が三遊間を破り1点を挙げた。

      加藤は終始、自分のペースを崩さずにシュートを武器に最少失点を守り抜き、

      春に続く全国制覇を成し遂げた。

      この加藤は八木沢の控えとはいえ、実力は十分あり優勝投手にふさわしかった。

      山本部長が加藤の素質を高く評価しじっくり育てた。

      初めは上手投げだったのを下手に変え、走り込みを徹底的に行い、足腰を鍛えた。

      夏までのトレーニングでエース級の力をつけ実際には二枚看板を形成していた。

      そしてここに過去、数多くの高校が実現できなかった「春夏連覇」を作新学院が

      見事に史上初めて成し遂げた。

      その後中京商、箕島、PL学園、横浜と「春夏連覇」を達成したが

      別々のエースで春と夏を制したのは今だに作新学院だけ。

      他の4校とはまったく意味の違う、まさに「奇跡の春夏連覇」である。